銀の匙 (岩波文庫)
中 勘助
とても久しぶりに読みたくなって買いました。
中勘助の少年時代を自伝風に綴った一冊。というか、ほぼ自伝なのか?と思ってしまう細かな優しい風景が浮かぶような作品です。
大人になってから少年時代を回想して書かれた作品は多いけど、銀の匙は「子供の体験した子供の世界。」「子供の体験を子供の体験としてこれほど真実に描きうる人はいない」と夏目漱石がとても高く評価しているのだとか。
本当にそうだと思う。病弱だった幼少時代に、銀の匙で薬を飲ませ、たくさんのお話を聞かせてくれて、大事に大事に可愛がって育ててくれた伯母さん。その伯母さんの背中にしがみついて、たもとを離さことすら出来ない弱虫であった少年。そろそろと伯母さんの背中を降りて、伯母さんなしでも仲良しのお友達と遊べるようになり、学校へ行くようになり。自分と伯母さんの小さい世界の中で「自分は一番だ!」と信じて疑っていなかったのが、実は学校では自分がびりっこけであることを知って愕然として「それならそうともっと早くに、そうだと教えてくれたらよかったのに」と周りの大人を恨みながらも負けず嫌いから猛然と勉強をして、知識が増え、学ぶことの面白さを知りグングン吸収し始めるのと同時に弱かった身体もまたどんどん発育して強くなり。同年代の友達との力関係も変わり始め、悩み始め。でもまだまだ男の子たちも皆めそめそするお年頃でカワイイ(笑)
やがて戦争が始まり、担任の先生が変わり、少年はいろんなことに1人反発を覚えて、どんどんと成長して自分の殻に閉じこもり考え事をするようになり。
その頃、しばらく離れていて久しぶりに再会した伯母さんは、すっかり老いさらばえて小さくなっていて。それを見た少年は、その時、自分が成長していることを実感して、伯母さん無しではいられなかったあの頃の自分との別れ(?)を実感したかもしれません。
17になって、友達の姉様に恋をして。口に出すことも何も出来ないかなわぬ恋だけども、幼い頃の仲良しの女の子が自分のほかの男の子とばかり仲良くするのを悔しがる気持ちとは全然違っていて。読み手が自然と、彼は少年期を脱したのだなぁと思うところで終わり…
そこまでが、それはそれは少年の目線で素直にこまやかに描かれています。イマドキの子供とはそれはそれは違っていそうだし、全部が全部「分かる分かる!懐かしいなぁ」と思えるほどに私だって同時代ではないけれど、でも何かしら思い出されそうな郷愁を感じるような。ずっと前に読んだ時よりずっと、そのままスッと心に入ってくるような感じがしました。子供が読むにも、大人が読むにも、十分な本だと思います。
次は「提婆達多」。こちらは「銀の匙」とはグッと違います。
中勘助は谷川俊太郎編の詩集もあるのだそうで。どんな詩が編まれているのか、それも読んでみたいなと思います。